東京高等裁判所 昭和40年(ネ)529号 判決 1966年10月07日
控訴人(原告) 小泉正三郎
右訴訟代理人弁護士 山本粂吉
同 大塚粂之丞
被控訴人(被告) トキワ農薬株式会社
右訴訟代理人弁護士 大谷政雄
主文
原判決を次のように変更する。
被控訴人は控訴人に対し金一〇五万円及びこれに対する昭和三九年三月七日から支払ずみまで年五分の金員を支払うべし。
控訴人その余の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
この判決は第二項にかぎり仮りに執行することができる。
事実
<省略>控訴代理人は請求の原因として控訴人はかねて訴外北興化学工業株式会社に対し農薬等の買掛代金一〇五万三一三円の支払債務を負担し、すでに履行期が到来していたところ、昭和三四年九月二四日被控訴人との間で被控訴人は控訴人の右債務の履行を引き受ける旨履行引受契約をした、しかるに被控訴人は右債務のうち内金三一三円の免除を受けた残額に対し現金及び商品をもって合計金一四万二、一八六円の支払をしたのみで、その余の履行をせず、そのため控訴人は昭和三八年一二月二〇日債権者北興化学工業株式会社の請求を受けて残金九〇万七、八一四円及びこれに対する遅延損害金一四万二、一八六円合計金一〇五万円を支払った、これは被控訴人の右履行引受契約にもとづく債務の不履行により控訴人がこうむった損害であるから、ここに被控訴人に対し右金一〇五万円及びこれに対する右損害の生じた日である昭和三八年一二月二〇日から支払ずみまで年五分の遅延損害金の支払を求めると述べた。<以下省略>。
理由
<省略>しかるに被控訴人が右債務中金三一三円の免除を受けた残額に対し内金一四万二、一八六円の支払を履行したことは控訴人の自認するところであるが、被控訴人がその余の履行をしたことはなんらその主張しないところである。しかして<省略>の結果をあわせれば、控訴人は被控訴人が右引受にかかる履行を完了しないため、債権者北興化学工業株式会社の請求を受け、前記鈴木はま提供の担保を処分されようとするにいたったので、鈴木はまにおいて右地上の立木を任意処分して得た売得金を控訴人に貸与し、控訴人においてこれにより昭和三八年一二月二〇日同会社に対し右債務残額九〇万七、八一四円及びこれに対する遅延損害金一四万二、一八六円合計金一〇五万円を支払い、これによって債務を消滅せしめるにいたったことを認めるに足りる。<省略>右損害金がいつからいつまでの分であるかは必ずしも明らかでないが、おそくも本件履行引受当時から右弁済の時までの法定利率によるものとしても右金額を上まわることは計算上明らかである。
右認定の事実によって考えれば、被控訴人は控訴人との間に締結した債務の履行引受契約にもとづく債務を一部履行したに止まり、その余の履行をせず、その結果控訴人に右金一〇五万円の弁済を余儀なくさせ、同額の損害をこうむらせたものというべく、被控訴人は控訴人に対しその債務不履行にもとづく損害賠償として右金員を支払うべき義務あるものというべきである。控訴人は右金額に対しその支払をした昭和三八年一二月二〇日から年五分の遅延損害金を請求するが、債務不履行にもとづく損害賠償債務は催告によって遅滞におちいるものと解すべきであるから、他に特段の事情の見るべきもののない本件においては被控訴人は右金額に対し本件訴状が被控訴人に送達された日の翌日であること記録上明らかな昭和三九年三月七日から支払ずみまで年五分の遅延損害金を支払えば足り、その余の義務はないものというべきである。
よって控訴人の本訴請求を右の限度で正当として認容し、その余を理由のないものとして棄却する。<以下省略>。